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上田学園 授業の記録と予定 
2003年春学期 (10)
〜 多言語学習の復習と 新たな課題 =音楽語の入門 〜
(全15回 4月15日〜7月29日)


2003年6月26日更新

★ 第9回 6月17日 授業の記録とその発展

 
《 星の王子様 》

今日のテーマは「格」( case)。

英語には代名詞のみ、主格・所有格・目的格が残っている。
フランス語・イタリア語・スペイン語などのラテン系の現代語も似たような状況である。不思議なことに、ラテン系の現代語の基になったラテン語自体はややこしい格変化をする。時間の流れと共に「退化」したんだね。英語も1350年ごろまでには文法上の「性」とともに「格」も退化したらしい。
こんな訳だから英語やフランス語どまりだったら、「格」についてのややこしい事を勉強しなくても済むんだけど、ドイツ語やロシア語はこれをはずすとにっちもさっちもいかない。「助詞」の勉強をしないで日本語を勉強するような事になる。

別の見方をすれば、「格助詞」という文法用語があるように日本語にも「格」はある。「私は」、「それを」、「僕に」は " watashi wa " , " sore wo " , " boku ni " のように「名詞 助詞」と分けて考えずに、" watashiwa " , " sorewo " , " bokuni " などのように「名詞+格語尾」とみると、「私」、「それ」、「僕」という語が「格変化」していると考えられるわけです。
外国人のための日本語の教科書をよく見てみよう。どちらで書かれているだろうか?

外国人といってもみんな様々な言語を母国語にしている。日本にいる外国人は大抵の場合は英語を話せるが、みんながみんなそうではない。母国語が何であるかによって教え方が変わるはずだ。
「格」の問題一つとっても、上記の2通りの表記のどちらがわかりやすいか異なっているはずだ。
というのは、自分自身ハンガリー語(ウラル語族)とモンゴル語(アルタイ語族)を学習したとき、それらの言語は日本語と語順が似ているが、後者の表記によって書かれていた。ハンガリー語はローマ字、モンゴル語はキリール文字(ロシア語で使われている文字)で書かれているが、ヨーロッパの言語を学んだ感覚から入るととても苦労した。
何が苦労したかというと、名詞や代名詞に助詞にあたる「接尾辞」がはまり込んでいるのである。こうした言語を母国語にしている人たちが日本語を勉強する時には逆に後者の表記の方がわかりやすいかもしれない。

こんなわけで、どの外国語を学ぶのでも困難は伴う。何気なく普段使っている基本的な言語の枠組みが母国語や比較的よく知っているはずの英語とは全く異なることがあるからである。

でもとりあえずは心配する事は無い。細かい事は後でいいのだ。子供がことばを覚えるときには文法なんか勉強しないよね。多くのまとまった表現を少しずつ「音」で覚えていく事を積み重ねる事によって、「使える」ようになるのが「言語そもそもの性質」なのだから。

さあて本題に入ることにしようか。
今日は「星の王子さま」の一節をドイツ語でモノにしてみよう。

" Wenn ich jemanden traf, der mir ein bisschen heller vorkam, versuchte ich es mit meiner Zeichnung Nr.1, die ich gut aufbewahrt habe."

合計23語だ。ドイツ語を初めて見る人は、パッと見ると英語とは違った景色に目が眩むかもしれない。でもドイツ語は英語と同じ西ゲルマン語に属するので、「暗号解読」の秘密の鍵がわかると、英語の勘が使える。

wenn 〜のとき     → when
ich 私は(主格)     →I
der , die (定冠詞)  →the
mir 私に(対格)     →me
ein , eins (1) (不定冠詞)        →a , one
bisschen 一口、一つまみ     →bit
vorkam 思われる         →fore + come( came ) 前に来る
versuchte 試みる           →seek
meiner 私の             →my
Zeichnung 絵             →sign (同源)
Nr = Nummer ナンバー         →number
gut よい                 →good
habe 持っている、(助動詞)        →have

なんと23語のうち17語、74%、つまり4分の3が英語との関連がある。
残りは6語。

jemanden    →someone
traf hit ,     →meet
heller      →bright , light
es        →it
mit        →with
aufbewahrt      →保管する、大切にしまっておく
※ auf も be も接頭辞。 wahren 保つ、守る。

このくらい覚えるのはどうってことはないよねえ。
この授業の重要なポイントは、知っている言語に近い言語の知識を使って、単語を推測する術(すべ)を身につけることだ。

ドイツ語やフランス語の辞書は近年よく整備されてきて、対応する英語が書かれていたりするので随分とこういうことが勉強しやすくなっています。世界もどんどん変わってきて新しい単語も増えてきているので、やっぱり辞書は新しい方がいい。
この10年、20年の間に随分と状況は変わってきている。日本語を母国語とする人たちが外国語を勉強する条件はかなりよくなってきています。こうして関連させながら勉強できる辞書や教科書も出てきています。がんばって色々な言語にチャレンジすると世界が広がるから、絶対おすすめ!

何?日本語に近い外国語は、だって?
そりゃ、ハングル(韓国語・朝鮮語)でしょう。文字さえマスターしてしまえば、日本人にとってこんなに楽な言語は無いかもしれない。でも大抵はハングル文字でめげる人が多いね。
僕に言わせりゃ、そんなのは

「始める前にやめちゃってる」

ってことですね。でも、そういう人たちが多いから巷の外国語教室が成り立っているのかもしれませんが・・・

2003年6月26日 見上潤 


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