今年も、筍!

 

 

裏庭では、いま、ピンクと白の2本のしだれ桃の木が満開の花をつけている。上田学園が引っ越してきたときに植えた、いわば“記念樹”なのでまだあまり大きくはないが、そろそろここの地面にも馴染んだらしく、だいぶ落ち着いて木らしいたたずまいになってきた。その根元にはハーブガーデンが広がり、残りの裏庭は砂利をひいて自転車置き場にしてある。

風もない今日の午後、しだれ桃の花を見ながらその裏庭でおしゃべりをしていたら、英国人の先生がとつぜん地面を指差して「出てるよ!ほら、そこ!」と言われた。言われて地面を見ると、なるほど、黒々とした土がむっくりと盛り上がった中に、深緑のような、こげ茶色のような、懐かしい姿が少し顔をのぞかせている。

「上田先生―!大変です。もう、出ました!」と思わず教室に駆け込む。「まあ、早かったわね。」と、上田先生も台所口から転がり出てこられる。そう、筍。筍は何しろ時間との勝負だ。掘らないと伸びる。あっという間に伸びる。伸びたらもう食べられない。

以前は日陰になっていた場所だったせいか、最初の年こそあまり採れなかったものの、去年は毎日毎日、誰かしらが掘っていないと追いつかないほど筍が出た。今日もさっそく、まだ授業の時間までひとときあった英語上級クラスの学生二人が、掘るのを引き受けてくれた。手馴れた様子で掘り進み、大きいものを3本、小さいものを2本、あっという間にきれいに掘り上げてくれた。

最初の年は、頭だけ出た筍を見ても、どういう形のものが埋まっているのか見当もつかないらしく、おっかなびっくり掘った割には途中でぐさりと切断してしまったりして散々だったっけ。そして、「あのう、これ、どうやって食べればいいんでしょう。」と言いながら剥いて、剥いて、「どこまで剥けるんでしょう。」と戸惑いの表情。そんなことも今では懐かしい。今年は外の粗い皮をざっと剥き、きれいに洗って大鍋に入れ「お願いしてもいいですか。」と私に向かって差し出す手にも自信が見える。

さあ、この初物の筍でなにを作ろうか。筍ご飯を炊いておにぎりを差し入れようか。それとも煮物にしておやつに出そうかしら、と考えていたら、春の日差しを受けた今日の地面のように、気持ちがほんのりと暖まった。

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