道路の真ん中で世界が切れてる気がする

 

 

陸軍士官学校出の義父が孫を連れて行きたいというので、先日、靖国神社にいった。桜にはまだ少し早い境内にはお団子や植木市などの売店が並び、地方からの大型バスが戦友会の人たちを乗せて続々と到着していた。

何より驚いたのは遊就館という戦争記念館が大幅にリニューアルされていたこと。5年程前には懐古趣味の、ほこりをかぶったような展示室だったのが、あきらかに若い人をターゲットにし、あるひとつの方向に考えを仕向けさせること目的とした、洗練(?)された展示になっていた。どこからか莫大なお金が投じられているのであろう。

能舞台では矢絣の着物に紫の袴をはいた女性たちが昔のままの歌詞による唱歌や戦前の流行歌の演目を披露し、日章旗を掲げて立つ不可思議なおじいさんは周りを行き交う人びとから「ご苦労さまです」とその存在の労をねぎらわれ、30代くらいのゲートルを巻いて兵士の格好をした男の人は、幸せな亡霊のごとく歩いていた。

一番印象的だったのは、そこにいる人それぞれが、その空気にとても安心し、そこに属した表情をしているように見えたことだった。現代のメール社会やホリエモンを理解することには不安が付きまとう人たち。

敷地を出て広い靖国通りの反対側に渡ったとき、13歳の息子がつぶやいた。「道路の真ん中で世界が切れてる気がする。」と。

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