声のボリュームの話

 

 

我が家の台所は二階にある。そちら側の窓を開けると、庭を隔てて隣に平屋建ての上田学園がある。ある初夏の午前中のこと、緑の風に乗って授業の声が聞こえてきた。「君達、学校でやる勉強には、決まった答えというものがあるが、社会に出てからの勉強には正解、というものはない・・・」と声は続くが、どうも様子がおかしい。先生の声が段々大きくなっていくようだ。はじめは、私の耳がおかしいのかと思った。だが、ジャガイモをむく手を止めてよく聞いてみると、一言一句内容がわかるほどに、ますます声が大きくなってきた。ちょうど、ボリュームのボタンをまわしていくような具合に。

昼休み、上田学園の玄関を開ける。すると、一人の学生が上田先生にこっぴどくお説教をされているところだった。「だから、眠くなったなら、先生にそうお断りして、顔でも何でも洗ってきなさい!それを、あんな少人数の授業で寝るとは何事ですか!!先生に対して失礼でしょう。」

声のボリュームの謎が解けた一瞬。

 

 

 

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